AIDBANDは,緊急時発信機能を持つ高齢者向けの腕時計型デバイスです.

これを制作したきっかけは,僕の祖父が自宅で転倒し,足を骨折するアクシデントがあったことです.そのときは,祖母が一緒に家にいたので,事なきを得ました.しかし,もし祖母がいなかったら,電話で誰かに助けを呼ぶこともできず,最悪の事態さえ起こっていたかもしれません.

これからの日本はますます高齢化・核家族化が進み,高齢者が一人で自宅で過ごす時間が多くなっていくことが予想されます.思わぬアクシデントが起きた際,誰かに助けを呼べるシステムを開発しました.

AIDBANDが行うことはとてもシンプルです.装着者は,まずAIDBANDと自分の携帯電話をBluetoothで接続しておきます.また,緊急時に発信する電話番号を設定しておきます.もし装着者が転倒した場合,AIDBANDは加速度センサと気圧センサで検出を行います.その後,装着者の携帯電話から,あらかじめ登録しておいた電話番号に電話をかけます.装着者はAIDBANDを通じて助けを求めることができます.もし気絶して会話できなかったとしても,通話相手は何かしらのアクシデントが起きた可能性を察知できます.

このようなコンセプトのもとで開発を行いました.まずは電気通信大学内の「UECものづくりコンテスト2016」に向けてデモ機の開発をしました.

大学に入学したばかりの僕だけでは到底作り得ないと思っていたので,大学で知り合った友人を3人,誘いました.

デモ機の写真.

デモ機は加速度センサが付いているaruduino互換機をはんだ付けし,ブレッドボード上で動くようにしました.この時はまだ,加速度がしきい値をこえたときにarduinoのログにメッセージを表示するだけでした.はんだ付けの方法をサークルの先輩から教えてもらいながら,自分ではんだ付けしました.苦労の跡が見てとれます(笑).

またプレゼンも行いました.デモ機だけでは審査員を納得させるのは難しいと思っていたので,プレゼンはかなり練習しました.デモとプレゼンの結果,UECものづくりコンテスト2016では優秀賞を受賞しました.

開発費として20万円をいただき,5ヶ月後の成果発表に向けてプロトタイプを作りました.

ここまではかなり勢いでやっていたので,ここからはかなり苦労したことを覚えています.友人にはかなり助けられましたが,なかでも気圧センサを搭載して転倒検知の精度を高めるというのはひとりの友人のアイデアです.気圧は数センチの差でも変わるそうで,当時の最新の気圧センサは10cmくらいから検知可能でした.

さっそく気圧計をインターネットで買いました.

一円玉と気圧センサ.人間がはんだ付けできるようにできていない.

これは…手でははんだ付けできませんでした.この後,気圧センサと加速度センサを搭載した小さな基板を友人がみつけてくれたので,それを使うことにしました.私が主に担当したのは企画・デモ機の作成で,プロトタイプは友人たちがいなければ完成しなかったでしょう.そうして出来上がったのが,この記事の最初にあるデバイスです.

転倒を検知して電話をかけるところまでを作ることができました.

この後はほそぼそと開発を続けようとしていましたが,発表会を終えたことで1つの区切りがつき,また友人たちもそれぞれやることがあったので,一旦開発をやめました.また祖父がこのときには元気になっていたのも理由の1つです.一緒に開発をしてくれた友人たちとは,大学を卒業した今でも友達です.それぞれ自分の得意なものを生かした仕事についており,とても刺激を受けています.

その後,2017年前半にはセコムからセコム・マイドクターウォッチというものが発売されました.これはスマホのアプリと連携させておくと,転倒検知やボタン操作でセコムが駆けつけてくれるという商品です.健康機能管理もついています.また,2018年のApple Watchからは転倒検知機能がつきました.

これらはかなり自分のアイデアと似ていたので,やはり自分が考えつくことは,大体誰かが考えついてるのだ,ということを身を以て知り,また完成度は段違いで,少し悔しい思いをしました.

とはいえ商品として実際に売られているものを目にしたとき,自分のアイデアの方向性は世間に通用するものだったということを感じ,自信になったことも事実です.

追記: 当時記録用に使っていたブログが発掘されました笑